海のはくぶつかん
2009年4月 春号
トピック
浜辺の深海生物
冨山 晋一(Shinichi Tomiyama)
 深海生物を見たかったら、多くの人は水族館か博物館へ出かけて行くしょう。しかし、駿河湾の海岸で深海生物を見られると言ったら、どう思いますか?このちょっと信じられない様な出会いのチャンスは、真冬の夜中に海岸を散策する勇気と根性さえあれば、誰にでも訪れます。懐中電灯を片手に波打ち際を注意深く見ていくと、砂利の上に点々と深海生物が打ち上がっていることがあるのです。ほとんどはすでに死んでいますが、運が良ければ生きて打ちあがる瞬間にも立ち会えます。しかし、どうして深海生物が海岸に打ち上がってくるのでしょうか?
 その謎をひも解く鍵は、駿河湾の特殊な海底地形にあります。駿河湾の海底には南北の方向に海溝(駿河トラフ)があり、水深は湾口部で約2500m、湾奥部でも約1000mになります。この海溝に向かって海底が急に落ち込むため、海岸のすぐ近くにまで水深200mを越える深い海が迫っています。もちろん、海岸が近いからといって、すぐに打ち上がってしまうほど深海生物もうっかり者ではありません。もうひとつ重要な要因となっているのが、季節です。冬になり強い季節風が吹くようになると、駿河湾表層の海水が沖へ流され、それを補うために海岸近くでは湧昇流が発生します。その流れに乗って、深海生物が運ばれてくると考えられています。また、表層の海水が冷やされて下層へ沈み込み、代わりに下層の海水が上昇する対流も起きるようになります。こうした条件がいくつも揃うことで、浅い水深にも深海生物が現れるようになり、中には運悪く打ち上げられてしまうものが出てくるのです。 しかし、昼間は暗い深場へ移動してしまうためか、ほとんど打ち上がることはないようです。
海岸で見つけたシギウナギ 海岸で見つけたキュウリエソ

海岸で見つけたシギウナギ(左)とキュウリエソ(右)
 駿河湾の海岸では、どんな深海生物を見ることができるのでしょう?今回、この原稿を書くにあたって何度か海岸を散策したところ、シギウナギやキュウリエソ(写真)などを見つけることができました。その他、代表的な種類としてはハダカイワシ類やミズウオ(図-A)などの深海魚が挙げられます。中には、ヤベウキエソ(図-B)やミホハダカ(図-C)のように、当館近くの三保の海岸に打ち上がったことで日本に生息していることが分かった種類(日本初記録種)もいます。打ち上がる生物のほとんどは体長数〜十数cmで、大きくても1mほどですが、数年前には体長約2.5mの巨大なサケガシラ(図-D)が見つかって話題になったこともあります。
ミズウオ ヤベウキエソ

図-A:ミズウオ

図-B:ヤベウキエソ
ミホハダカ サケガシラ

図-C:ミホハダカ

図-D:サケガシラ
 今回の話を聞いて、海岸を散策してみようと思った方がいるかもしれません。しかし、そこは自然が相手。深海生物が必ず打ち上がっているとは限りません。私自身、何も見つけられないまま朝を迎えたこともあります。それでもあきらめずに通い続けた人だけが、感動の出会いを体験することができるのです。

深海生物の中には、夜になると自発的に海表面付近へ移動する種類もいます(日周鉛直移動)。このような種類は海から強い風が吹くときに海岸に打ちあがると考えられています。

『海のはくぶつかん』2009年4月 春号 Vol.39, No.2, p.7
冨山 晋一(とみやま しんいち):総合業務室学芸業務課 (所属・肩書は発行当時のもの)
春休み特別展示「くまのみ幼稚園」
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